新潟地方裁判所 昭和25年(ヨ)117号 決定
申請人 進藤利一郎 外三十二名
被申請人 日本通運株式会社
一、主 文
申請人等の本件仮処分の申請をいづれも却下する。
申請費用は申請人等の負担とする。
二、理 由
一、申請の趣旨
被申請人が申請人A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、O、P、R、Sに対してなした昭和二十五年七月十五日附解雇の意思表示、申請人T、U、Vに対してなした同年四月十七日附解雇の意思表示、申請人、W、X、Y、Z、a、b、Q、に対してなした同年同月十日附解雇の意思表示、申請人c、d、e、f、gに対してなした同年同月十八日附解雇の意思表示、はいづれもその効力を停止する。
申請費用は被申請人の負担とする。
との裁判を求める。
二、申請の理由
別紙記載の通り。
三、当裁判所の判断
(一)、当事者双方提出の疏明方法によれば事件の経過として次のような事実が一応認められる。
被申請人会社(以下会社と云う)の従業員はその労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として全日通労働組合(以下全日通と云う)を組織し、東京都にその本部を置き、下部組織として会社の機構に対応して支社毎に地区を、府県別又は鉄道管理部別に支部を、支店毎に分会を設けてゐるが、申請人等はいづれも会社の新潟支社に勤務する従業員であつて、同支社に対応する全日通の下部組織である全日通労働組合新潟地区(以下新潟地区と云う)の組合員であり別紙目録第一記載の申請人等は新潟地区の、同目録第二記載の申請人等は新潟地区新潟支部の、同目録第三記載の申請人等は新潟地区新潟支社分会の、同目録第四記載の申請人等は新潟地区柏崎分会の、同目録第五記載の申請人等は新潟地区三条分会のそれぞれ執行委員であつた。
会社と全日通とは両者の間に昭和二十三年七月十二日締結せられた労働協約の改訂の問題に関して昭和二十四年十月頃から数次に亙つて団体交渉を重ねてゐたがこの問題について意見の妥結を見ないうちに、全日通は昭和二十五年二月頃から相次いで会社に対して(イ)退職金制度の改正(ロ)寒地手当二ヵ月分相当額の支給、(ハ)賃金ベースの改正(ニ)結婚資金の改訂等の諸要求をなしこれらの問題をも含めて更に団体交渉をなして来たが両者の間に容易に意見の一致を見ず同年五月十日遂に交渉は決裂するに至つた。
そこで全日通は労調法第十八条第一項第三号の規定によつて同年同月十三日中央労働委員会に対して、1、労働協約の改訂2、四月以降の本格賃金の改訂3、退職慰労金制度の改正4、結婚資金5、寒地手当の五項目の問題について調停の申請をなしたが中央労働委員会は全日通の労働組合としての法定の資格の有無について疑義をもつたので調停手続を開始しなかつた。
一方新潟地区はこれ等の問題について本部と歩調を合せて会社新潟支社との間に交渉をなして来たが、これと共に、昭和二十五年四月頃から会社柏崎支店とこれに対応する全日通の下部組織である柏崎分会との間に会社の機構改正及びこれに伴う人事異動に関して紛争を生じ、また同年六月会社秋田支店とこれに対応する全日通の下部組織である秋田分会との間に、東北肥料株式会社現場における臨時作業員七名の解雇について紛争を生じ、これ等の問題に関する要求貫徹のために組合員が就業時間中に組合活動を盛んに行うようになつて来たので、会社新潟支社において同年七月五日新潟地区に対し就業時間中に組合活動をなした場合その時間に対する賃金を支払はない旨の通告をなしたため、事態はますます紛糾し解決の道がなかつた。
そこで新潟地区は昭和二十五年七月六日会社新潟支社長に対し書面で(い)就業時間中の組合活動に対する賃金不支給の通告即時撤囘(ろ)四月賃金一万二千円即時支給(は)雪害寒冷地手当組合要求の即時支給(に)臨時作業員の即時入籍の四項目の要求をなすと共に右要求貫徹のため新潟支社、三条、柏崎、信濃大町、酒田、秋田の各分会に対して八日午前八時三十分から同盟罷業に入るべき旨指令し、これに従つて右各分会の中酒田分会を除くその余の分会は同月八日午前八時三十分から一齊に同盟罷業をなし、酒田分会は同月九日午前八時三十分からこれに参加したが同日夜に至つて新潟地区より罷業を中止し改めて秋田県全分会は十二日、新潟県全分会は十三日、長野県全分会は十四日、山形県全分会は十五日順次罷業をなすべき旨の指令があつたのでいづれの分会も同月九日をもつて罷業を中止し、その後三条ならびに柏崎の各分会の一部の組合員が右指令に従つて同月十三日より引続いて同盟罷業をなしたのである。
これに対し会社は右同盟罷業は全日通の意向を無視し且つ労調法第三十七条に違反してなした非合法のものであつて、申請人等はいづれも新潟地区、新潟支部、新潟支社分会、柏崎分会、三条分会の幹部としてそれぞれその所属の組合員に対して此の違法な罷業を指令し、これを指導して会社の職務上の指示命令に不当に反抗し、職場の秩序を乱したことを理由として会社就業規則第百十八条第三号により別紙目録第一記載の申請人及び第二記載の申請人中Qを除くその余の申請人等に対し同年同月十五日、同目録第三記載の申請人等に対し同月十七日同目録第四記載の申請人及び申請人Qに対し同月十日、同目録第五記載の申請人等に対し同月十日それぞれ解雇の意思表示をなした。
(二)、申請人等は右解雇の意思表示が無効であることの理由として
(1) 組合の前記争議行為は適法なものである。従つて申請人等がこのような争議行為を指令し且つ指導したのは組合の正当な行為をなしたものであるに拘らず、これを理由としてなした本件解雇の意思表示は労働組合法第七条第一号の規定に違反する。
(2) 会社は本件解雇をなすに際しいわゆる解雇予告手当を支払はない。仮りに右解雇が申請人等の責に帰すべき事由に基くものであるとしてもこれについて行政官庁の認定を受けてゐないから労働基準法第二十条に違反する。
(3) 本件解雇は会社就業規則に定められた懲戒委員会の諮問を経ずしてなされた懲戒解雇であるから同就業規則に違反する。
との三点を挙げてゐるので以下これ等の点について順次判断するに、
(1)の点について、
疏明方法によれば被申請人会社は全国的な規模で通運、貨物自動車運送、倉庫業等を営んでゐる会社であることが疏明せられるから本件争議が公益事業に関するものであることは明白である。
而して公益事業に関し労働組合が争議行為をなす場合にその組合がいわゆる法外組合であつても労調法第三十七条の関係においてはこの規定の性質上やはり同法第十八条の規定による調停の申請をなすことが出来るものと解すべきである。
ところで新潟地区が本件同盟罷業をなしたのは全日通が中央労働委員会に対して前記1、ないし5、の五項目について調停の申請をなした日より三十日を経過した後であることは前記の通りであるが、疏明方法によれば新潟地区は前記の如く全日通の下部組織であるが、その実質においてはこれを構成する一つの独立した単位組合としての組織体をなしてゐるのであつて本件罷業を決行するに先立ち昭和二十五年七月六日全日通中央本部に対しその承認を求めたが、同本部において同月七日時期尚早としてこれを拒否し新潟地区に対し罷業をなすべきでない旨の指示をなしたに拘らず、本部のこの様な意向を無視し、本部の意思に反して本件罷業をなしたものである。のみならず、本件罷業における要求項目の内の前記(い)就業時間中の組合活動に対する賃金不支給の通告即時徹囘及び(に)臨時作業員の即時入籍の二項目は全日通が中央労働委員会に調停申請をなした1、ないし5、の事項と全く関連のない新な事項で新潟地区独自の立場に基くものであり、しかも此の二項目を主たる目的としたものであることが疏明されるから本件争議は、新潟地区が全日通とは関係なく独自の立場においてこれをなしたものと云はざるを得ないのである。従つて全日通がなした前記調停申請は新潟地区の本件争議行為について労調法第三十七条所定のいわゆる冷却期間の起算点としての意義をもたないのである。
新潟地区が本件争議をなすには改めて労働委員会に対して労調法第十八条の規定による調停申請をなし、その日から同法第三十七条所定の冷却期間を経過した後でなければならなかつたものと云はざるを得ないのである。さすれば前記(い)ないし(に)の四項目について改めて右調停申請をなさずして行はれた本件同盟罷業はこの点において違法たるを免れないのであつて、申請人等が組合の幹部としてかかる争議行為を指令し且つこれを指導した行為は組合の正当な行為をしたものとは云ひ得ないのである。されば申請人等の此の様な行為が正当であつたことを前提とする申請人の(1)の主張は理由なきものと云はなければならない。
(2)の点について、
労働基準法第二十条所定の手続の履践の有無は、解雇の意思表示の効力に影響を及ぼすものではないと解すべきであるからこの点に関する申請人の主張も採用することが出来ない。
(3)の点について、
元来就業規則は職場における秩序維持のために従業員が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目等を使用者が一方的に定めたものにすぎないから法的規範として使用者を拘束する効力をもつものとは解せられない。労働者が本件の如き懲戒解雇の事由及び手続等労働関係の重要な規定について法的規範としての拘束力をもたせようと希望する場合には労使間の団体交渉によつて締結せられる労働協約によるべきである。さすれば申請人等の(3)の主張は会社が本件解雇をなすについて、会社就業規則所定の手続を履践したか否かを判断するまでもなく失当たるを免れない。
(三) 以上に判断した通り本件解雇の意思表示については申請人等主張の如き違法の点は何等存しないのであるから、その違法なる事を前提とする本件仮処分の申請はその余の点について判断する迄もなく理由なきこと明かである。
よつて申請人等の本件仮処分申請は何れもこれを却下すべきものとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 山村仁 松永信和 中村憲一郎)
(別紙目録省略)